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東京地方裁判所 昭和31年(ワ)10216号 判決

判  決

東京都台東区仲御徒町二丁目二七番地

原告

大洋セメント興業株式会社

右代表者代表取締役

三善清胤

右訴訟代理人弁護士

真田康平

関山忠光

東京都千代田区霞ケ関一丁目一番地

被告

右代表者法務大臣

植木庚子郎

右指定代理人法務省訟務局局付検事

朝山崇

同法務事務官

久保田衛

室峰良正

同大蔵事務官

広瀬時江

吉沢利治

三宅貞信

右当事者間の昭和三一年(ワ)第一〇、二一六号不当利得返還請求事件について当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者双方の申立

原告訴訟代理人は「被告は原告に対し金一一、六七七、八五七円並びにそのうち別紙目録(一)記載の各金額に対する同目録記載の各納付日の翌日から支払ずみまで各年五分の金員を支払うべし。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、被告指定代理人は主文と同旨の判決を求めた。

第二、当事者双方の主張

原告訴訟代理人は、請求の原因及び被告の主張に対する反論として次のとおり陳述した。

一、原告会社はもと株式会社相互金庫と称し、昭和二六年四月に設立せられ、東京都港区芝浜松町三丁目一番地に本店を有し、都内及び千葉、埼玉、茨城、栃木、長野、群馬、福島の各県下に支店、支社、三ケ所営業所三一カ所を設け、昭和二九年一二月その商号を現在のように改め、かつ、事業目的を変更するまでの間、いわゆる株主相互金融方式により、金銭の貸付、金銭貸借の斡旋、及びこれに付帯する業務を営んでいたものであるが、その事業内容は、次のとおりである。(1)株式の額面は一株金五〇〇円であるが、取扱上一〇株式(金五、〇〇〇円)をもつて一口とし、株主は金員払込の態様により、日掛、月掛、一時払の株主の三種類に分け、日掛の株主は申込口数の金額をその百分の一ずつ百日間毎日払い込み、月掛の株主は申込口数の金額をその一〇分の一ずつ一〇カ月間毎月払い込み、一時払の株主は申込口数の金額を一時に払い込む。(2)日掛及び月掛の株主は各株金払込完了と同時に、又一時払の株主は払込後六カ月経過と同時に、その株式を原告会社の斡旋により他に譲渡することができ、その際右株主は当該株式の譲受人から原告会社を通じ払込金額に相当する株式譲渡代金の支払を受ける。(3)右株主が原告会社から融資を受けない場合には、原告会社から優待費名義で一定の金銭の支払を受ける。(4)右優待費は、日掛の株主にあつては一口につき金二五〇円、月掛の株主にあつては一口につき金三五〇円、一時払の株主にあつては一口につき払込金額の年二割四分(但し六口以上の株主には一口につき払込金額の年三割)に相当する金額とする。

二、原告会社は、右のとおり原告会社の株主に対し設立以来一定金額を優待費として支払つたところ、原告会社の本店、支店、支社、営業所を各管轄する芝税務署長外別紙目録(二)の「徴収決定した税務署」欄記載の各税務署長は、原告会社が各種株主に給付する右優待費のうち、日掛、月掛の株主及び一時払の株主のうち定期資金領収証書を発行しないもの(いわゆる日掛D)に給付する優待費はいずれも所得税法上株主に支払われる配当金であり、定期資金領収証書を発行する一時払の株主に給付する優待費は預金の利子であるから、原告は所得税法第四三条第三七条によつて所得税を源泉徴収して政府に納付すべき義務があるのにこの徴収義務を怠つたとして、原告に対し別紙目録記載のとおり昭和二八年七月一五日から昭和二九年一二月二四日までの間合計七九回にわたり、別紙目録(二)「納税告知年月日」欄記載の日にそれぞれ原告に対し合計金二四、〇六七、八四二円の源泉徴収所得税の納税告知処分をし、さらに芝税務署長外別紙目録(二)「納付税務署」欄記載の各税務署長は、これに基いて原告会社の財産を差し押え、公売に付する等して、別紙目録(二)「納付税額」欄記載のとおり昭和二八年一〇月二三日から昭和三一年一〇月一五日までの間一八二回にわたり合計金一一、六七七、八五七円を強制徴収した。

三、しかしながら原告会社が株主に支払つた前記優待費は、所得税法第九条第一項第一号の「預金の利子」あるいは同条同項第二号の「利益の配当」にはあたらない。すなわち、右規定にいう「利子」とは同号の公債、社債及び預金の利子並びに合同運用信託の利益に限られ、又「利益の配当」とは株式会社に関する限り商法第二九〇条第一項の利益の配当を指すことは所得税法の規定から明らかであるところ、原告会社が株主から受け入れる資金は、すべて株主たらんとする者の株式譲受代金すなわち株式の対価であつて、原告会社の預り金ではなく、かりに原告会社が株式譲受代金以外の金員を受け入れたとすれば、それは原告会社がそれらの者から会社運営の資金として借り入れた消費貸借契約による借入金であるから、いずれにせよこれに対する優待費を「預金の利子」と解する余地はない。被告は一時払の株主の出資金はもつぱらそれらの株主の利殖の目的のために払い込まれ、これに対して一定割合の金員が優待費名義で支払われるものであるから、右は預金の利子に当ると主張するが、原告会社が株主から受け入れる資金は、一時払の株主たると日掛及び月掛の株主たるとをとわず、すべて株式譲受代金であつて、その間に性質上の差異はなく、又原告会社において右各株主によりその出資金に対する取扱を二、三にしたこともないから、一時払の株主の払込金のみを預り金たる性質を有するとするのは全く理由がない。仮りに一時払の株主が原告会社に対し交付する金員が被告の主張するように預り金だとすれば、株主はその取得する株式の対価を支払わないことになるから、株式を所有しない株主が存在することとなつて、原告会社は株式会社たる性格を失うことになるわけであるから、被告の主張の失当であることは、この点からも明らかである。又右優待費は、原告会社が株主に対し会社の事業に賛同し株主となつたことに対する謝意を表する趣旨で支払ういわば「株主優待金」ともいうべきものであり、それが株主総会の決議によらないのは勿論、原告会社の事業の損益にかかわらず株式申込契約により一定額の金員を支払うものであるから、これが商法にいう「利益の配当」にあたらないこともまた明らかである。したがつて「預金の利子」もしくは「利益の配当」でないことの明らかな右優待費につき、これに該当するものとして所得税法第四三条、第三七条に基いてした芝税務署長らの前記納税告知処分は、いずれも無効な行政処分といわなければならない。

四、よつて前記芝税務署長らが原告から源泉徴収所得税として強制徴収した金一一、六七七、八五七円は、被告が法律上の原因なくして取得したものであるから、被告に対し右金員及び別紙目録(一)記載のとおりこれに対する各納付日の翌日から支払済にいたるまで民法所定の年五分の割合による損害金の支払を求める。

被告指定代理人は、原告の請求原因に対する答弁及び被告の主張として次のとおり陳述した。

一、原告の請求原因一の原告会社の事業内容のうち、(2)の一時払の株主に関する主張は、定期資金領収証書を発行しない取扱の場合についてのみ認め、定期資金領収証書を発行する場合については否認する。

その余の事実は認める。同二記載の事実は認める。同三、四記載の事実は否認する。

二、いわゆる株主相互金融とは、一般に株式会社が自己の発行した株式を操作することによつて不特定多数の大衆から資金を吸収するとともに、資金提供者に対しては、終局的には株主たる地位を附与し、株主相互間における資金融通を図ることを目的とする企業方式であるが、原告会社の業務内容はおおむね次のとおりである。

(1)株主の募集、会社はあらかじめ増資によつて自己の株式を発行し、これを役員等特定人に引き受けさせたうえ、原告会社の株主となることを希望する者に株式の譲渡を斡旋し、この者に株式譲受申込書を作成させて会社に提出させ、同時に第一回の株式譲受代金(株式払込金相当額であつて、日掛株主にあつては三日分、月掛株主にあつては一月分、一時払株主((但し後記定期資金領収証書を発行しない場合のみ))にあつてはその金額)を受領し、申込者は株主たる地位を取得する。

(2)株券の交付、一時払の株主(但し後記定期資金領収証書を発行しない場合のみ)については払込金支払後申込者からの名義書替請求により株式の名義書替を行い、株主名簿に登載する。分割払込者にあつては原告会社が株式取得代金を立て替えたもののように取り扱つて(これを株主融通金という)株主たる地位を与えるが、払込完了後請求によつて名義を書き替え、株券を交付する。払込未了者であつても請求があれば譲渡等を禁ずる特約を附した上株券を交付する。

(3)融資、株主で融資を希望する者に対して最高一五〇、〇〇〇円を限度として会社資金を融通する。

三、本件納税告知処分及び徴収処分はいずれも適法である。

(一) 被告は原告会社が単に株金充当資金―預り金―として受け入れた相手方に対し、右資金額に相応する優待費を支払う場合にこれを利子所得の支払として、源泉徴収義務者たる原告に法定税額の納付を命じたものである。すなわち、原告会社は昭和二八年七月頃まで、一時払の株主に対しては所定の金員の支払と引換えに「特定株主定期資金領収証書」を交付する取扱を採用していた。同書には右金員を「株金充当資金」として領収したこと、所定の優待費を支払うこと、右資金を「借入金」として取り扱うこと等の文言が記載せられており、右文言の意味は必ずしも明確ではないが、少くともそれが株式譲受代金として授受されているものとは認め難い。又右資金は「借入金」と名づけられてはいるが、右一時払の株主が原告会社に金員を払い込むのは、これを原告会社の運転資金として利用させるために換言すれば原告会社の利益のための消費貸借上の貸金として払込むのではなく、株主自身がもつぱら優待費受領の目的でするもの、すなわち利殖のため一定期間金員の保管を原告に託すものにすぎず、その意味において定期予預金と同様の経済的効用を有するものと認められるから、右金員は借入金という名目を有する預り金というべきものであり、消費寄託金と解すべきところ、所得税法第九条第一項第一号の予金とは、銀行予金のみを指すのではなく、一般に消費寄託金をいうのであるから、前記のような契約形態のもとに支払われた優待費名義の金員が所得税法第九条第一項第一号、第三七条に規定する「利子所得」に当ることは明らかである。

(二) 被告はその他の優待費、すなわち日掛、月掛の株主に対するものの外、一時払の株主に対するものでも定期資金領収証書を発行せず、株主たる地位に基いて優待費として金員の支払をする取扱方法によるもの(原告がいわゆる日掛Dと称するもの)は、いずれも株主たる本来の地位に基いて株式額面に相応する優待費を支払うものであるから、これを所得税法第九条第一項第二号第三七条所定の「配当所得」と認定して課税したものである。なんとなれば、前記優待費の支払は、原告会社がこれら株主の提供した資金利用によつて収益をあげることが予期されるため、あらかじめ会社の利益を予定してこれを株主に分配する趣旨でなされるものであるから、融資を受ける株主が融資によつて会社より資金融通の利益を受けるのと対応し、融資等によつて会社が収受する利益の分配の一態様というべきものである。したがつてかかる方式によつて分配される利益であつても、これが会社の利益ないしは予想収益の分配である以上、これを所得税法上「法人から受ける利益の配当」と解すべきことは当然である。のみならず、所得税法上、利益の配当というのは、商法上の利益の配当のみを指すのではなく、株主が資本の払戻手続によらないで、会社の純資産を減少する方法で利益を受ける場合のすべてをいうものと解すべきところ、前記優待費の支払が資本払戻手続によらないで会社の純資産を減少する方法で株主に利益を与えるものであるから、この理由からも利益の配当にあたることは明らかである。

よつて本件各納税告知処分はいずれも適法であるから、これに基いてした滞納処分もまた適法といわなければならない。

四、仮りに被告の法令解釈が誤つており、右納税告知処分が違法であるとしても、本件優待費が利子所得又は配当所得に該当しないということは、法令の解釈上しかく明白なものではないから、右かしは何びとも疑を容れず右処分を無視しうる程明白なかしとはいいがたい。したがつて右かしは納税告知処分の無効原因とはなりえないから、右処分が取り消されていない本件においては、これに基く滞納処分による被告の強制徴収の結果が不当利得を構成する余地はない。

第三、証拠関係<省略>

理由

一、原告がもと株式会社相互金庫と称し、昭和二六年四月に設立せられて以来東京都港区芝浜松町三丁目一番地に本店を有し、都内及び千葉、埼玉、茨城、栃木、長野、群馬、福島の各県下に支店、支社三カ所営業所三一カ所を設け、昭和二九年一二月までいわゆる株主相互金融方式により金銭の貸付、金銭貸借の斡旋及びこれに附帯する業務を営んでいたものであり、その事業内容は、「(1)株式の額面は一株金五〇〇円であるが、取扱上一〇株式(金五、〇〇〇円)をもつて一口とし、株主はその払込の態様により日掛、月掛、一時払の株主の三種類に分け、日掛の株主は申込口数の金額をその百分の一ずつ百日間毎日払い込み、月掛の株主は申込口数の金額をその一〇分の一ずつ一〇カ月間毎月払い込み、一時払の株主は申込口数の全額を一時に払い込む。

(2)日掛及び月掛の株主は各株金払込の完了と同時に、又一時払の株主のうち定期資金領収証書を発行しない取扱のものについては、払込後六カ月経過と同時にその株式を原告会社の斡旋により他に譲渡することができ、その際株主は当該株式の譲受入から原告会社を通じ、払込株金に相当する株式譲渡代金の支払を受ける。

(3)右株主が原告会社より融資を受けない場合には原告会社から優待費名義で一定の金額の支払を受ける。

(4)右優待費は、日掛の株主にあつては一口につき金二五〇円、月掛の株主にあつては一口につき金三五〇円、一時払の株主にあつては一口につき払込金額に対し年二割四分ないし三割に相当する金額とする。」というものであることは、いずれも当事者間に争いがなく、更に(1)原告会社はあらかじめ増資によつて自己の株式を発行し、これを会社役員等特定人に引受けさせたうえ、原告会社の株主となることを希望する者に株式の譲渡を斡旋し、この者に株式譲受申込書を作成させて会社に提出させ、同時に第一回の株式譲受代金(株式払込金相当額であつて、日掛株主にあつては三日分、月掛株主にあつては一月分、一時払株主((但し定期資金領収証書を発行しない場合のみ))にあつてはその全額)を受領し、申込者は株主たる地位を取得すること、(2)一時払の株主のうち定期資金領収証書を発行しない取扱の場合は、払込金支払後申込者からの名義書替請求により株式の名義書替を行い、株主名簿に登載する。分割払込者にあつては、原告会社が株式取得代金を立替えたもののように取り扱つて株主たる地位を与えるが、払込完了後請求によつて名義を書き替えて株券を交付し、払込未了者であつても請求があれば譲渡等を禁ずる特約を附した上株券を交付すること、(3)株主で融資を希望する者に対して最高一五〇、〇〇〇円を限度として会社資金を融資すること等の方法により原告が業務を処理していたことは、原告において明らかに争わないからこれを自白したものとみなす。

二、しかして原告会社がその株主に対し一定金額を優待費として支払つたところ、原告主張の各税務署長が原告会社が各種株主に給付する優待費のうち、日掛、月掛の株金及び一時払の株主で定期資金領収証書を発行しないもの(いわゆる日掛D)に給付する優待費は所得税法上株主に支払う配当金であり、定期資金領収証書を発行する一時払の株主に給付する優待費は預金の利子であるから、原告は所得税法第四三条第三七条によつて所得税を源泉徴収して政府に納付すべき義務があるのにこの徴収義務を怠つたとして、原告主張のとおり合計金二四、〇六七、八四二円の納税告知処分をしたこと、及び原告主張の各税務署長が、これらの処分に基いて原告主張のとおり合計金一一、六七七、八五七円を強制徴収したことは、いずれも当事者間に争いがない。

三、そこで本件源泉徴収所得税納税告知処分が原告主張のように無効であるかどうかについて判断する。

(一)  先ず原告は一時払の株主に対する優待費は所得税法第九条第一項第一号所定の「予金の利子」に該当しないと主張し、これに対し被告は同号の予金とは一般に消費寄託金をいうものであるところ、一時払の株主のうち定期資金領収証書を発行する場合において株主が払込む金員は消費寄託金であるから、これに対応して支払う原告の優待費は「預金の利子」と解すべきであると主張する。

所得税法第九条第一項第一号にいう「預金の利子」の「預金」とは一般に金銭消費寄託のすべての場合を含むと解すべきかどうかについては若干の疑問があるが、少なくとも銀行等の金融機関が多数人から消費寄託契約により金銭を受け入れる場合の預り金が右規定にいう預金に含まれることは疑いを容れないところであり、金融機関でない者が不特定又は多数の者から消費寄託契約に基づいて金銭を受け入れる場合においても、その行為が出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律(昭和二九年法律第一九五号。)旧貸金業等の取締に関する法律(昭和二四年法律第一七〇号。上記昭和二九年法律第一九五号により廃止)等に違反するかどうかにかかわらず、その預り金は金融機関によるそれと同一性質をもつものであるから、上記所得税法にいわゆる預金に該当し、受託者が寄託者に対してその寄託金の額、期間等に応じて支払う金銭は、その名目のいかんを問わず預金の利子に該当するものと解すべきである。

そこで本件において、定期資金領収証書の交付を受けた一時払の株主が原告に払い込む金員が右の如き性質を有するものかどうかについて検討することとする。

(証拠)を合わせると、原告会社は創立直後から昭和二八年四月頃までの間前記のいわゆる株主相互金融方式とは別個に、融資を受けることを希望せず、利殖をはかることのみを目的とする不特定多数の者から資金を受け入れる手段として一口当り金五、〇〇〇円を一時に払い込み、六カ月据置いてその間又は満期後に優待費を支払う一時払の方式を採用したこと、右一時払方式においては、申込は日掛及び月掛方式と同様株式譲受申込書(乙第一号証別紙一―但しゴム印による「殿の縁故により」及び「株券交附遅延を承諾致します」の押捺のなきもの)なる書面をもつてこれをなすこととされていたが、これは一時払方式の申込者のために特別の用紙を用意しなかつたことと、書面上株式譲渡代金の払込であるかの如き形式を装うためであつて、当初より日掛及び月掛方式の申込における如く株式の発行、割当を予想しておらず、そのために後者の場合には申込者から同時に株券保管依託書、有価証券移転書等(乙第一号証別紙二)の書面を徴していたのに、右一時払の申込者からはこれらの書面を徴することもなく、又原告会社の社員が申込を勧誘するに当つても、本社の指示により右一時払の方式は銀行の定期預金と同様のものである旨説明し、申込者もかかるものと理解して申込をしていたこと、右一時払方式の申込者に対しては、当初はその希望により原告会社において申込者を受取人とする約束手形を振り出し交付したこともあつたが、その後取扱を一元的にするため、専ら銀行の定期予金証書に類似した体裁の定期資金領収書(乙第一号証別紙七)を交付して契約の証とし、申込者の選択により、毎月特定日または契約期間満了後に優待費なる名目で払込金額に対し年二割四分ないし三割の割合の金員を支払つていたこと、右方式による受入金については原告会社はこれを日掛月掛方式による受入金と区別して取り扱い、後者は相互仮受金として計上するが前者は借入金としてこれを計上し、支店営業所から毎月提出させる営業日報にも、日掛、月掛、借入金に区分して各新規契約、満期解約等を記載させており、現に第二期(自昭和二七年四月一日至昭和二八年三月三一日)決算における財務諸表においても、貸借対照表中には両者を区別することなくこれを一括して負債欄に相互仮受金として資本金額一七〇、〇〇〇、〇〇〇円をはるかに超える五〇〇、六九八、三四五円を計上しているが財産目録においてはそのうち一六五、七二三、三四五円が相互仮受金として、残り三三四、九七五、〇〇〇円が株金借入金として、それぞれ分別計上せられており、前者は日掛月掛方式により株式譲渡代金として受け入れたもの後者は前記一挙払の方式により株式とは関係なく受け入れたものをそれぞれ計上したものであること、このように原告会社は一時払方式による受入金を借入金として処理していたため、昭和二八年四月関東財務局の金融検査を受けた際、右金員の受入れが貸金業等の取締に関する法律第七条に違反して預り金を取り扱つているものと認定され、業務停止の警告を受けたため、原告会社はその後は取扱方式を改め、一時払方式によるものも日掛月掛方式によるそれと同様株式譲受代金として受け入れることとし、その申込方式の切替当初はさしあたり従前使用していた株式譲受申込書に「―殿の縁故により」及び「株券交附遅延を承諾致します」の文字をゴム印で押捺し使用することとしたが、その後まもなく右の趣旨をもおり込んだ株式譲受申込書及び株券保管依託書が一体となつた新形式の書類(乙第一号証別紙三)を作成し、申込に際してはこれらの書類を差し出させるほか日掛、月掛払による申込と同様株主総会の委任状(乙第一号証別紙四)をも提出させ、他面申込者に対しては定期資金領収書の代りに株主相互金融契約証書(乙第一号証別紙九)を交付することとし、その取扱形式を本来の株主相互金融方式による株式譲渡代金の受入れという趣旨に適合する取扱いに改め、これを分類上は日掛の株主の中に加え、日掛Dという名称を付し、以後はこれに対しても株式を取得せしめることになつたこと、このようにして原告会社は従来の方式により受け入れたいわゆる株金借入金については満期後解約するか又は契約更新の際新方式である日掛Dの契約に改める等して極力その減少に努め、その結果昭和二八年九月末において株主借入金は二九五、〇〇〇、〇〇〇円に減少したこと、以上の事実を認められることができる。(中略)他に右認定を覆すに足る証拠はない。

以上認定の事実によつて考えると「特定株主定期資金領収証書」を発行してする一時払の方式は、申込に際し株式譲渡申込書なる書面を用い、また契約者に交付する右定期資金領収証書中に「特定株主」及び「株金充当資金」なる字句を使用するほか、「株券は手続きの上何時にてもお渡し致します。」なる文言を記載する等あたかも右契約者を原告会社の株主として遇し、受入金は株式譲渡代金であるかの如き体裁を一応とつているとはいえ、原告会社においては当初よりこれらの者に株式を取得せしめる意思なく、単に銀行利率よりはるかに有利な利息をもつて回収しうる旨をもつて申込を勧誘し、申込者もまた株主となるという如きことは全く考慮しないで申込をしていたものであり、事実上もこれらの契約者に対しては株式の譲渡が行われず、株主たる地位を形式上も与えられることはなかつたのであるから、右の株式譲渡代金とか株主とかいうのは、前記のように貸金業者取締に関する法律第七条の禁止規定を潜脱するための実体を伴わない全くの形式的な名称にすぎず、契約内容自体は株主優待費なる名目の一定利率による利息の支払を伴う金銭消費寄託契約にほかならないというべきである。原告はもし右受入金が株式譲渡代金でないとすれば、株主はその取得する株式の代金を支払わないことになるから株式を所有しない株主が存在することとなると主張するが、発行ずみの株式を取得するに有償無償を問う要はないから右主張はそれ自体失当であるのみならず、右一時払方式により契約者が原告会社の株主となることは当初から契約内容となつておらず、またその取扱もされていなかつたことは前記のとおりであるから、右主張はなんら理由がない。又原告は、右受入金が株式譲渡代金でないとすればそれは原告会社がその事業運営資金獲得のため借り入れた消費貸借契約による借入金であると主張し、原告会社の経理上右受入金が株主借入金の名で処理されていたことは前記認定のとおりであるが、事業運営資金取得のため一定利率による利息を付して返還する約定の下で金銭を受け入れる契約は何も消費貸借契約のみに限られるものではなく、消費寄託契約によつて受れた金銭もまた事業運営資金として利用せられることが可能である、まして本件における如く、一定利率による利殖を欲する不特定多数人に対してかかる利息の意味をもつ金銭の支払約束をもつて金銭の提供を勧誘し、これらの者から金銭を受け入れ、よつてもつてその標榜する他の株主への融資等の事業資金にあてる場合はまさに一般の銀行預金と全くその性質を同じくするものでこの場合における契約は消費貸借契約ではなく消費寄託契約であると解するのが相当である。原告会社が経理上これを株主借入金として処理していることはなんら右の解釈を妨げるものではない(かえつて前掲乙第一号証によれば、原告会社は特定人からの消費貸借による借入金は別途に借入金としてこれを計上していることが認められるが、これもおのずから両者がその性質を異にするものであることを示すものといえなくもない。)よつて原告の右主張も理由がない。しかして右の如く、不特定多数人から消費寄託契約により受け入れた金銭は所得税法第九条第一項第一号にいわゆる「預金」に該当し、これにつき支払われる利息が同号にいう「預金の利子」に該当することはさきに説明したとおりであるから、原告会社が前記旧方式による一時払の契約者に対し株主優待費なる名目で支払う金銭をこれらの契約者の利子所得とし源泉徴収義務者たる原告会社に対して法定の税額の納付を命じた被告の処分にはなんらの違法がないといわなければならない。

(二) 次に原告会社において日掛、月掛及び一時払のうち定期資金領収証書を発行しない、いわゆる日掛D方式の株主に支払つた優待費が所得税法第九条第一項等二号にいう法人から受ける「利益の配当」に該当するかどうかにつき判断するに、(原告は被告が日掛D方式による一時払の株主を含めて一般に一時払方式による契約者からの受入金を預金と認め、これに対して支払われる優待費を預金の利子と認めて源泉徴収税の納税告知処分をした旨主張しているけれども、被告は日掛D方式による一時払の株主に対する優待費を預金の利子でなく法人から受ける利益の配当として原告会社に対し納税告知処分をしたものであることは(証拠)により明らかである。

前記当事者間に争いのない事実と(証拠)によれば、日掛、月掛及びいわゆる日掛D方式による契約は次の如きものであることが認められる。すなわち、原告会社においてはその発行する株式を一株額面五〇〇円とし、これを会社役員等特定の者に引き受けさせたうえ、これらの者の払い込むべき株金額は原告会社からこれらの引受人に貸し付けた形式をとり、原告会社においてその株主となることを希望する者に一〇株を一口として額面額合計五〇〇〇円による右株式の譲渡を斡旋し、この者に株式譲受申込書を作成させて株券保管委託書、有価証券移転書、株主総会の委任状等とともに原告会社に提出させ、同時に第一回の株式譲受代金(日掛株主は三日分、月掛株主は一月分、日掛Dによる株主は全額)を受領すると同時にこれに株主たる地位を与え、日掛Dの方式による一時払の株主に対しては株金払込後申込者からの名義書替請求により名義書替を行い、株主名簿に登載し、分割払込の株主に対しては原告会社が株式取得代金を立て替えたもののように取り扱つて株主たる地位を与えるが、払込完了後請求によつて名義を書き替え、株券を交付し、払込未了者に対しても請求があれば譲渡等を禁ずる特約を附したうえ株券を交付する、これらの株主は、分割払のそれにあつては払込期間満了と同時に、また日掛D方式によるそれにあつては六カ月の期間満了と同時に原告会社の斡旋によつてその有する株式を払込金額と同額で他に譲渡することとなるが、継続を希望する者は再び株式譲受申込の手続をとつて引き続き株主たる地位を保持することができる、しかしてこれら株主は原告会社から最高一五〇、〇〇〇円までの融資を受けることができるが、かかる融資を受けない株主に対しては、優待費名義で日掛の株主については一口につき金二五〇円、月掛の株主については一口につき金三五〇円をそれぞれ払込期間満了時に交付し、日掛D方式による株主については一口につき払込金額の年二割四分ないし三割に相当する金員を六カ月の期間満了の際交付する、というものである。これによつてみると、これらは日掛、月掛および日掛D方式による契約者の払い込む金員は、原告会社の斡旋により譲渡を受ける株式の代金であり、これらの契約者はこれによつて原告会社の株主となり、他面右払込金によつて結局原告会社の資本が充実されるように操作されているのであるから、たとえ右契約者が主観的には原告会社の株主たる地位を取得することに重きを置かず、原告会社もまたこれらの者に株主たる地位を与えるのは単にこれらの者から会社運営の資金を取得する手段的のものにすぎないと考えていたとしても、又右株式の譲渡にあたつて特定の譲渡人と譲受人との間に譲渡に関する合意がなされる訳ではなく、専ら原告会社において適宜株主名簿の書替を行う等の方法によりつじつまをあわせるという操作がとられているにすぎないにせよ、なお右契約は法律上はその申込者をして株式額面額に相当する金員を出捐して原告会社の株主たる地位を取得せしめることを目的とするものといわなければならない。しかして前記原告会社がこれらの株主に対して支払う優待費なるものは、それらの者が株主であることを前提として支払われるものであることは前記のおりであるところ、被告は、右優待費は原告会社においてあらかじめ利益を予定して、これを株主に分配する趣旨でなされるものであるから、所得税法上の利益の配当にあたることは当然であるのみならず、同法にいう利益の配当とは広く資本の払戻手続によらないで会社の純資産を減少する如き方法により株主に利益を与えるすべての場合を含むものと解すべきであるから、この点からも右優待費の支払が利益の配当にあたることは明らかであると主張する。しかしながら、前記日掛、月掛及び日掛Dの株主に支払われる優待費は、上に認定したところから明らかなように、原告会社から金融を受ける意思を有しない者からも出資者を募るために、会社における収益の有無や株主としての利益配当とは全く無関係に、一定額の金員を支払う旨をもつて契約締結を誘引し、かつ、申込者との間にその旨の契約を締結し、右契約に基づいて支払われるものであり、出資者を募る手段としての約定に基づくという点においては、原告会社からも金融を受けることを欲する者が契約上かかる金融を受ける利益を保障されるのと同断であるから、後者の株主が受ける利益と同様会社の収益を予定しあらかじめこれを分配する意味において株主に与えられる利益たる性質をもつものということはできない。もとより会社が株主たるべき者に対して株主たる地位を取得する対価として利益の配当とは別個無関係に一定の金銭を支払うことを約諾するが如きはきわめて異常であり、かかる契約の効力自体当然に問題となりうるであろうし、又法人税法上の見地からはあるいはかかる優待費の支払は会社事業運営上の必要経費なりとしてこれを損金とみることを得ず、その意味においては一種の益金処分とみざるをえないかもしれないけれども、しかしそのことは当然には右の支払の性質を所得税法上の利益の配当とする理由になるものではない。又被告は、資本の減少手続によらないで会社の純資産を減少せしめる方法によつて株主に利益を与える場合はすべて利益の配当にあたると解すべきである旨主張するけれども、会社が正規の資本減少の手続によらないで純資産を減少せしめる如き行為をする場合、正常の現象としては利益の配当以外にかかる行為が予想されないとしても、病的現象としてはそれ以外にも種々の趣旨態様でなされ、それぞれ異なつた性質の行為として評価すべきものがありうるのであるから、所得税法上これらの行為をあまねく包摂するためにはやはりその趣旨を明らかにするような規定を設くべきものであり、現行所得税法が単に「利益の配当」とのみ規定し、上記諸行為のうち一つの定型的行為を掲げるにとどまつている以上、かかる定型的行為の範疇に帰属せしめることのできない他の行為はたとえそれが被告のいわゆる正式の資産減少手続によらないで会社の純資産を減少せしめる方法によつて株主に利益を与えるものに該当するとしても、これをもつて所得税法上の利益の配当に含まれるものとすることはできない。しかして利益の配当という以上、それには適正たると不適正たるとをとわずなんらかの意味ないし形における収支計算を予定し、かかる収支計算の下における収益を観念しつつこれを株主に分配するという趣旨、性質のものでなければならないというべきところ、本件日掛月掛及び日掛Dの株主に対する株主優待費の支払をかかる趣旨ないし性質のものと認めえないことはさきに述べたとおりであるから、これをもつて所得税法上利益の配当にあたるとし、これにつき原告に源泉徴収義務ありとしてした被告の納税告知処分は結局において違法たるをまぬかれないといわなければならない。

しかしながら、ひるがえつて考えるに、所得税法上の利益の配当を上記の如く解した場合においても、会社の株主に対する利益の付与が右の利益の配当にあたるかどうかは、必ずしも常に明白であるということはできないのであつて、正常の手続によつてなされる利益の配当がこれに該当することは明らかであるけれども、さまざまの形で行われる利益付与の中には、果して右の意味における利益の配当にあたるかどうか認定の困難なものが少なくない。会社が税務官庁から収益として捕捉されるものをできるだけ少なくするために、会社の事業上の経費として支出するかの如き形をとりながらその実利益を株主に分配する目的でなされるような行為においては、かかる利益分配の趣旨をもたない行為との区別がきわめて困難である。本件優待費の支払においても、それが原告会社から金融を受けない株主に対してあまねく与えられる反面、株主以外の者には与えられないものであり、又右以外に株主に対する利益配当が行われたことはなく、右優待費の中には経済的にみれば本来会社の収益を構成し、したがつて利益配当として株主一般に配当すべかりしものがある程度混入しているとも考えられる等の諸点に照らすときは、被告の主張する如くあらかじめ収益を予定してこれを分配する趣旨で当初から株主たるべき者に対し一定額の金銭の支払を約諾し、右契約に基づく支出金であるかの如く装つてこれら株主に対し配当をなすものであるとの疑を生ぜしめるに十分であり、それを然らずして上記の如く利益の配当にあらずとなすためには、詳細な事実関係の調査検討の上に立つ極めて微妙な判断を要するのであるから、被告の上記認定は、結果的には誤りであるとはいえ、右認定に基づく本件納税告知処分を無効ならしめるほどしかく明白な誤りであるということはできない。してみると、原告の主張は、この点において理由なきものとしなけばならない。

四、以上の次第で、本件納税告知処分はいずれも無効とは解せられないから、右処分の無効を前提とする原告の本訴請求は、爾余の点を判断するまでもなく失当たるを免れない。よつて原告の本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第二部

裁判長裁判官 浅 沼   武

裁判官 中 村 治 朗

裁判官 時 岡   泰

目録 (一) (二) 《省略》

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